行政法を勉強していると、「公定力(こうていりょく)」という言葉が出てきます。
公定力とは、一言でいえば、
行政庁が行った処分は、たとえ違法であっても、正式に取り消されるまでは有効なものとして扱われるという考え方です。
そこで多くの人がこう思うのではないでしょうか。
「えっ?行政処分が違法でも有効なの?」
その感覚は間違っていません。
少し乱暴に聞こえるかもしれませんが、このルールにはきちんと理由があります。
学校の先生に例えてみる
例えば学校で、担任の先生が勘違いをして、
「あなたは試験でカンニングをしたから、放課後に校舎を掃除しなさい。」
と言ったとします。
しかし実際には、あなたはカンニングなどしていません。
つまり、この処分は明らかに間違っています。
それでも、校長先生などが正式に「先生の判断は誤りでした」と取り消すまでは、周囲の先生や生徒はその処分を有効なものとして扱います。
「先生が間違っているから従わない」と自分だけの判断で決めることはできません。
行政法の公定力も、これとよく似た考え方です。
なぜこんな制度が必要なの?
「行政が間違っているなら、最初から無効でいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、もし国民一人ひとりが行政処分の有効・無効を自由に判断できるようになると、社会は大混乱になります。
例えば、
- 税金の納付命令に「計算が間違っているから払わない」
- 運転免許の取消しに「納得できないから運転を続ける」
- 営業停止命令に「違法だから無視する」
このようなことが誰でもできてしまえば、行政は成り立ちません。
そこで法律は、
「まずは行政処分を有効なものとして扱い、不服がある人は法律で定められた手続によって争ってください。」
というルールを採用しています。
これは、社会秩序や法的安定性を維持するためです。
具体例:違法な建物の撤去命令
例えば、行政庁があなたの建物を違法建築だと勘違いし、
「この建物を取り壊してください。」
という命令を出したとします。
しかし実際には、その建物は適法に建築されたものでした。
つまり、この撤去命令は違法です。
それでも、公定力があるため、裁判所が取消判決を出したり、行政庁自身が撤回したりするまでは、その命令は法律上有効なものとして扱われます。
「違法だから」と自分の判断だけで命令を無視することはできません。
このような場合は、取消訴訟を提起し、裁判所に処分の取消しを求めることになります。
公定力にも例外がある
もちろん、公定力にも限界があります。
行政処分の瑕疵が、
「重大かつ明白」
である場合には、その処分は最初から無効とされます。
つまり、公定力は及びません。
例えば、
- 保健所が「死刑を宣告する」という通知を出した
- 行政庁が「1時間以内に月を破壊しなさい」と命令した
このように、権限がまったく存在しなかったり、内容が社会通念上あり得なかったりする場合は、誰が見ても無効です。
このような処分には、公定力は認められません。
一方で、
「違法建築ではない建物を違法建築と誤認した」
という程度の誤りであれば、違法ではあっても「重大かつ明白」とはいえず、公定力が認められる可能性があります。
まとめ
公定力を一言で表すなら、
行政処分は、違法であっても、取り消されるまでは有効なものとして扱われる。
ということです。
行政法では、
「行政処分に不服があるなら、自分で無効と判断するのではなく、取消訴訟などの正式な手続で争う。」
という考え方が基本になります。
最初は少し理不尽に感じるかもしれませんが、公定力は社会の秩序や法的安定性を維持するために設けられた重要なルールなのです。